ヒヤリハット報告書を書いていて、原因までは何とか考えられたものの、「対策をどうすればいいのだろう」と悩んだことはないでしょうか。
私も製造現場でヒヤリハットの原因や対策を考えることがありますが、以前は「今後は十分注意する」「作業者へ注意喚起する」といった対策になってしまうことがありました。
もちろん、注意すること自体が間違っているわけではありません。
しかし、作業者の注意だけに頼っていると、忙しいときや慣れが出てきたときに、同じヒヤリハットが起きる可能性があります。
そこで私が意識しているのが、「人に気をつけてもらう」だけではなく、「気をつけなくても事故につながりにくい状態を作れないか」と考えることです。
この記事では、製造現場で使いやすいヒヤリハット対策の考え方を、具体例を交えながら紹介します。
※ヒヤリハット報告書全体の書き方については、別記事で「事実→原因→対策」の順番から詳しく紹介しています。
目次
ヒヤリハット対策を「気をつける」で終わらせない
ヒヤリハットの対策を考えるとき、つい書いてしまいやすいのが「今後は十分注意する」「周囲をよく確認する」「作業者へ注意喚起する」といった内容です。
私自身も、対策がなかなか思いつかないときは、このような言葉でまとめたくなることがあります。
ただ、「気をつける」だけでは、ヒヤリハットが発生したときと現場の状態はほとんど変わっていません。
たとえば、通路の段差につまずいたヒヤリハットに対して「足元に注意する」と決めても、段差そのものは残っています。作業者が急いでいたり、荷物を持って足元が見えにくかったりすれば、同じことが起きる可能性があります。
そこで対策を考えるときに確認したいのが、**「次に同じ状況になったとき、前回と具体的に何が変わっているのか?」**ということです。
段差をなくす、運搬方法を変える、危険箇所を見えるようにするなど、実際の作業や環境が変わる対策まで考えることが、再発防止につながります。
再発防止策は「人」ではなく「仕組み」を変えられないか考える
ヒヤリハットの再発防止策を考えるとき、私はまず「作業者に注意してもらう前に、設備や作業方法を変えられないか」と考えるようにしています。
たとえば、段差でつまずく危険がある場合、「段差に注意して歩く」という対策だけでは、作業者の注意力に頼ることになります。
一方で、「段差そのものをなくす」「段差を目立つようにする」「運搬経路を変更する」といった対策なら、危険な状態そのものを減らすことができます。
私は対策を考えるとき、まず危険そのものをなくせないかを考えます。それが難しければ、危険に近づかなくて済む方法はないか、作業方法や設備を変えられないかと順番に考えていきます。
もちろん、すべての危険を設備や仕組みだけでなくせるわけではありません。教育や注意喚起が必要になる場合もあります。
大切なのは、最初から「作業者に気をつけてもらう」で終わらせないことです。
**「人が注意し続けなければ安全を保てない状態になっていないか」**と一度立ち止まって考えるだけでも、対策の選択肢は広がります。
ヒヤリハットの対策を考えるときの4つの視点
「仕組みを変えた方がいいのは分かったけれど、具体的な対策が思いつかない」ということもあります。
そんなときは、私は対策を**「設備・作業方法・作業環境・ルールや教育」**の4つに分けて考えるようにしています。
なお、対策を考える前に「そもそも原因が思いつかない」という場合は、ヒヤリハットの原因が思いつかないときの考え方で、原因を「人・設備・方法・環境」に分けて整理する方法を紹介しています。
① 設備・物を変える
まず考えたいのが、設備や道具を変えることで危険を減らせないかという視点です。
たとえば、重量物を手で運んでいるなら台車を使う、物が落下する可能性があるならストッパーを取り付けるなどです。治具やカバー、ミラーなどを追加する方法もあります。
② 作業方法を変える
設備を変えるのが難しければ、作業方法を見直します。
一人で行っている作業を二人作業にする、手運搬をやめて台車を使う、作業する順番を変えるなど、同じ作業でもやり方を変えることで危険を減らせる場合があります。
③ 作業環境を変える
設備や作業方法だけでなく、周囲の環境にも目を向けます。
通路に段差がないか、床が滑りやすくないか、照明が暗くないか、物が置かれて通路が狭くなっていないかなどを確認します。作業者ではなく、作業する場所に原因が隠れていることもあります。
④ ルールや教育を変える
最後に、作業手順書の見直しやチェックリストの追加、作業者への教育などを考えます。
ただし、「注意するよう教育した」で終わらせるのではなく、教育した結果、実際の作業がどう変わるのかまで考えることが大切です。
この4つに分けると、思いついた対策だけで終わらず、別の角度からも再発防止策を探しやすくなります。
具体例|20kgの薬品容器を運搬中に転倒した場合の対策を考える
私が経験したのは、約20kgの薬品が入ったポリ容器を運搬していたとき、段差でバランスを崩して転倒したという事例です。
幸い大きな事故にはなりませんでしたが、もし容器が破損して薬品が漏れていたら、作業者の負傷や周囲への影響につながる可能性もありました。
この事例に対して、
「重量物を運ぶときは足元に十分注意する」
だけでは、対策として不十分だと考えました。
そこで先ほどの4つの視点から考えてみます。
設備・物の対策としては、20kgの容器を手で持たず、運搬に適した台車を使用する方法があります。
作業方法の対策としては、一人で持ち上げて運搬する方法を見直し、必要に応じて二人で扱う、決められた運搬方法を使うといった方法が考えられます。
作業環境の対策では、転倒のきっかけとなった段差を解消できないか確認します。すぐに改修できなければ、段差を分かりやすく表示したり、段差を通らない運搬経路へ変更したりする方法もあります。
そしてルールや教育の対策として、重量物や薬品容器の運搬方法を手順書に明記し、作業者へ周知します。
ここで大切なのは、思いついた対策をそのまま採用することではありません。
台車を安全に使用できる通路なのか、二人作業を現実的に続けられるのか、段差を本当に解消できるのかなど、現場で確認する必要があります。
対策を考えたら、最後に**「同じ状況がもう一度起きても、この対策で防げるだろうか?」**と確認するようにしています。
対策は1つだけではなく組み合わせて考える
ヒヤリハットの対策は、必ずしも1つに絞る必要はありません。むしろ、複数の対策を組み合わせた方が安全性を高められる場合があります。
先ほどの薬品容器の例で「今後は台車を使う」と決めたとしても、それだけで十分とは限りません。運搬経路に段差が残っていれば、今度は台車が段差に引っかかる可能性があります。
そこで、**「専用台車を使用する+段差を改善する+運搬方法を手順書に明記する」**というように、設備・環境・ルールの対策を組み合わせます。
私は、一つの対策だけを見て安心するのではなく、**「この対策がうまく機能しなかった場合でも、別の対策で事故を防げないか」**という視点も持つようにしています。
すべてのヒヤリハットで何重もの対策が必要なわけではありませんが、重大な事故につながる可能性がある場合ほど、一つの対策だけに頼らず考えることが大切です。
ヒヤリハット対策を決める前に現場で確認する
良さそうな対策が見つかっても、すぐに決定するのではなく、実際の現場で実行できるか確認することが大切です。
たとえば「重量物は台車で運ぶ」と決めても、通路が狭くて台車が通れなかったり、途中に段差があって別の危険が生まれたりする可能性があります。
私も対策を考えるときは、実際の作業場所を見ながら「本当にこの方法で作業できるか」「別の危険が増えないか」「無理なく続けられるか」を確認するようにしています。
書類の上では良い対策に見えても、現場で続けられなければ意味がありません。
特に作業方法を変更する場合は、実際にその作業をしている人の意見を聞くことも重要です。対策を考えて終わりではなく、現場で実行できるところまで確認することが再発防止につながります。
対策が思いつかないときはChatGPTで「候補」を増やす方法もある
4つの視点で考えても、なかなか良い対策が思いつかないことがあります。そんなときは、ChatGPTを使って自分にはなかった視点を増やす方法もあります。
たとえば、先ほどの事例なら次のように入力します。
「20kgの薬品容器を運搬中、段差でバランスを崩して転倒しました。再発防止策を『設備・作業方法・作業環境・ルール』の4つの視点から、それぞれ5つ挙げてください。」
このように条件を具体的にすると、台車の使用や運搬経路の変更など、複数の対策候補を短時間で整理できます。
私がChatGPTを使う目的は、対策そのものを決めてもらうことではなく、自分では気づかなかった候補や視点を増やすことです。
実際の現場には、設備の制約や作業スペース、使用している薬品など、ChatGPTだけでは判断できない条件があります。
出てきた案をそのまま採用せず、実現できるか、安全上問題がないかを現場で確認したうえで、最終的な対策は自分たちで決めることが大切です。
私が実際にヒヤリハット報告書をChatGPTで整理した方法や、使うときに気をつけていることは、ChatGPTでヒヤリハット報告書を作成した実体験で詳しく紹介しています。
まとめ|良い対策は「次に同じ状況になっても防げるか」で考える
ヒヤリハットの対策で大切なのは、「今後は気をつける」と書いて終わらせるのではなく、次に同じ状況になったとき、本当に同じことを防げるかまで考えることです。
設備、作業方法、作業環境、ルールや教育という視点に分けると、対策の選択肢を広げやすくなります。
そして、考えた対策が現場で実行できるかを確認し、必要であれば複数の対策を組み合わせます。
ヒヤリハット報告書を書くこと自体が目的ではありません。
小さなヒヤリハットの段階で原因と対策を考え、次の事故を防ぐために現場を少しでも変えることが、本来の目的だと私は考えています。


