ヒヤリハット報告書を書いていると、
「起きたことは書けるけど、原因が思いつかない……」
と手が止まってしまうことがあります。
私も製造現場でヒヤリハットを考えるとき、原因の欄で悩むことがあります。とくに困るのが、目立った設備トラブルやルール違反がなく、「本人が気をつけていれば防げたのでは?」と思えるケースです。
しかし、そこで「不注意だった」「確認不足だった」と書いて終わらせてしまうと、次の対策も「注意する」「確認を徹底する」だけになりがちです。
原因が思いつかないときは、無理に答えをひねり出す必要はありません。
まず起きたことを事実として整理し、そこから原因になりそうな要素を少しずつ広げて考えることが大切です。
この記事では、製造現場の具体例を使いながら、私がヒヤリハットの原因を考えるときに意識している方法を紹介します。
目次
ヒヤリハットの原因が思いつかないのは珍しいことではない
ヒヤリハットが起きたからといって、その原因がすぐに分かるとは限りません。
たとえば、「作業中につまずいて転びそうになった」というヒヤリハットがあったとします。
つまずいた本人に聞けば、「足元をよく見ていなかった」と答えるかもしれません。確かに、それも原因の一つとして考えられます。
しかし、実際の製造現場では、それだけとは限りません。
通路に物が置かれていた、作業スペースが狭かった、重い物を持っていて足元が見えにくかった、決められた運搬方法がなかったなど、いくつもの要素が重なっている可能性があります。
原因が思いつかないと、「とりあえず不注意としておこう」と考えたくなりますが、私はそこで一度立ち止まるようにしています。
大切なのは、最初から一つの原因を当てようとしないことです。
「ほかにも関係していたことはなかったか?」と視点を広げることで、それまで見えていなかった原因の候補が見つかることがあります。
まずは「なぜ起きた?」より「何が起きた?」を整理する
原因を考えようとすると、すぐに「なぜ起きたのか?」を考えたくなります。
しかし、私は原因が思いつかないときほど、いったん「なぜ?」から離れて、「何が起きたのか?」を整理するようにしています。
たとえば、
「作業者が20kgの薬品容器を持って段差を上がろうとしたところ、バランスを崩して転倒した」
というヒヤリハットがあったとします。
この段階では、「注意不足だった」「持ち方が悪かった」といった原因を付け加えません。まずは、実際に確認できた事実だけを並べます。
確認したいのは、「誰が」「どこで」「何をしていたときに」「何が起きたのか」といった基本的な情報です。さらに必要であれば、容器の重量や運搬方法、周囲の状況なども確認します。
ここで大切なのは、事実と推測を混ぜないことです。
最初から「注意不足が原因」と決めてしまうと、それ以外の原因を見落としやすくなります。
ヒヤリハット報告書を書くときも、私は「事実→原因→対策」の順番で整理するようにしています。
ヒヤリハット報告書全体の書き方については、関連記事の「ヒヤリハット報告書の書き方|製造現場の実例付き」で詳しく紹介しています。
まず事実を整理する。そのうえで、「なぜこの状況になったのか?」と考える。
この順番にするだけでも、原因を考えやすくなります。
原因が思いつかないときは「人・設備・方法・環境」の4つに分けて考える
ヒヤリハットの事実を整理しても、原因がなかなか出てこないことがあります。
そんなときに私が意識しているのが、原因を一方向から考えるのではなく、「人・設備・方法・環境」の4つに分けて考えることです。
人
まずは、作業した人に関係する要素です。
たとえば、作業経験が少なかった、確認が不足していた、作業に慣れて油断していた、無理な姿勢で作業していた、といったことが考えられます。
ただし、「人」に原因がありそうだからといって、すぐに「本人の不注意」と決めつけないことが大切です。
なぜその行動を取ったのかまで考えると、別の原因が見えてくることがあります。
設備
次に、使用していた機械や工具、台車、保護具などに問題がなかったかを確認します。
「適切な道具が用意されていたか」「設備に使いにくい部分はなかったか」「点検や整備はされていたか」などです。
人が注意するだけでは防ぎにくいヒヤリハットも、設備や道具を見直すことで再発を防げる場合があります。
方法
作業方法や手順、ルールにも目を向けます。
手順書がなかった、ルールが曖昧だった、決められた方法が実際の作業に合っていなかった、教育が十分ではなかった、といった可能性です。
本人はいつも通り作業していただけでも、その「いつも通り」に問題が隠れていることがあります。
環境
最後は、作業する場所や周囲の状況です。
通路が狭い、床に段差がある、照明が暗い、物が置かれている、周囲が騒がしく集中しにくいなど、作業者以外にも原因につながる要素はあります。
このように4つに分けて考えると、「本人がミスしたから」という一つの方向だけではなく、原因の候補を横に広げられます。
最初から正解を一つ見つけようとするのではなく、まずは考えられる原因を出してみる。私はこの考え方を大切にしています。
具体例|20kgの薬品容器を運搬中に転倒した場合の原因を考える
では、実際のヒヤリハットを例に考えてみます。
私が以前経験したのは、20kgほどある薬品のポリ容器を運搬し、段差を上がろうとしたところバランスを崩して転倒したというケースです。
幸い大きな事故にはなりませんでしたが、一歩間違えばケガや薬品の漏えいにつながる可能性もあります。
このケースを「人・設備・方法・環境」で考えると、原因の候補をいくつも挙げられます。
人で考えれば、重量物を一人で持って運ぼうとしたことや、段差を上がる際の姿勢などが候補になります。
設備では、運搬に適した台車や補助器具を使用できなかったかという視点があります。
方法では、重量物をどのように運ぶのか、段差がある場所ではどうするのかといった運搬方法が明確だったかを確認できます。
環境では、運搬経路に段差があったことや、十分なスペースが確保されていたかなどが考えられます。
ここで重要なのは、これらをすべて「原因だった」と決めつけないことです。
あくまでこの段階では原因の候補です。
実際の状況を確認しながら、「今回のヒヤリハットに本当に関係していたのはどれか」を絞り込んでいきます。
こうして考えると、「バランスを崩した」「注意が足りなかった」だけで終わらせるより、再発防止につながる原因を見つけやすくなります。
「本人の不注意」で終わらせないことが大切
製造現場のヒヤリハットでは、「本人の不注意」「確認不足」「作業者の意識不足」といった原因を書くことがあります。
もちろん、本当に確認が不足していたケースもあるため、人に関する原因を無理に除外する必要はありません。
ただ、私は**「不注意だった」で原因分析を終わらせないこと**が大切だと考えています。
なぜなら、原因を不注意だけにすると、対策も「今後は注意する」「作業前の確認を徹底する」となりやすいからです。
そこで、もう一段だけ掘り下げます。
「なぜ確認できなかったのか」「なぜその作業方法を選んだのか」「設備や作業環境で防げる部分はなかったか」と考えてみます。
このとき、なぜなぜ分析のように一つの原因を深く掘るだけで行き詰まる場合は、いったん視点を横に広げる方法も有効です。
なぜなぜ分析が途中で進まなくなったときの考え方については、「なぜなぜ分析が進まないときの考え方」でも詳しく紹介しています。
ヒヤリハットの目的は、誰かのミスを見つけることではなく、同じようなことが再び起きないようにすることです。
そのためにも、「本人が気をつければいい」で終わらせず、設備や方法、環境まで含めて原因を考えることが重要だと感じています。
対策が「気をつける」だけになってしまう場合は、ヒヤリハットの対策例と再発防止の考え方で具体例を紹介しています。
原因候補が複数出たら、現場で事実を確認する
「人・設備・方法・環境」で考えていくと、原因の候補がいくつも出てくることがあります。
ここで注意したいのが、考えた原因をそのまま「今回の原因だった」と決めつけないことです。
たとえば、「台車を使えなかったのではないか」と考えても、実際にはすぐ近くに台車が用意されていたかもしれません。反対に、手順上は台車を使うことになっていても、現場では段差があって使いにくかった可能性もあります。
そのため、原因候補が出たら、実際の作業場所や設備、手順書を確認し、必要に応じて作業した本人にも状況を聞きます。
机の上で考えるだけでは分からないことも、現場を見ると気づくことがあります。
原因を考えることと、原因を確認することは別です。
候補を出したあとに事実と照らし合わせることで、より実態に近い原因を絞り込めると考えています。
どうしても原因が出ないときはChatGPTで「視点」を増やす方法もある
それでも原因の候補が出てこないときは、私はChatGPTを使って視点を増やすこともあります。
たとえば、会社名や個人名、製品名などの機密情報を入れないようにしたうえで、次のように入力します。
「20kgの薬品容器を一人で運搬中、段差を上がろうとしてバランスを崩し転倒しました。考えられる原因を『人・設備・方法・環境』の4つの視点から挙げてください」
すると、自分では思いつかなかった原因候補が出てくることがあります。
ただし、ChatGPTが出した内容をそのまま原因として報告書に書くわけではありません。
ChatGPTは現場を見ていませんし、実際の作業方法や設備の状態も知りません。あくまで「ほかに確認すべきことはないか」を考えるための補助として使います。
出てきた候補を現場で確認し、事実と合っているものだけを残すことが大切です。
私は以前、ヒヤリハット報告書を作成した際にも、起きたことを箇条書きにしてChatGPTに入力し、原因や対策の候補を整理しました。そのときの使い方や注意点は「ChatGPTでヒヤリハット報告書を作成した実体験」の記事でも紹介しています。
ChatGPTに答えを決めてもらうのではなく、自分だけでは気づかなかった視点を出してもらう。
ヒヤリハットの原因を考える場面では、この使い方が合っていると感じています。
まとめ|原因が思いつかないときは「答え」ではなく「視点」を増やす
ヒヤリハットの原因がすぐに思いつかなくても、無理に「不注意」「確認不足」と書いて終わらせる必要はありません。
私が意識している流れは、まず何が起きたのかを事実として整理し、「人・設備・方法・環境」の4つから原因候補を出し、最後に現場で確認することです。
それでも原因が見つからなければ、ChatGPTを使って自分にはなかった視点を増やす方法もあります。
大切なのは、最初から正解を一つ当てようとしないことです。
ヒヤリハットは誰かを責めるためではなく、同じことを繰り返さないためのものです。
原因が思いつかないときほど、「答えは何だろう?」と悩み続けるのではなく、「ほかにどんな原因が考えられるだろう?」と視点を広げてみることから始めてみてください。


